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デジタルコヒーレントDSPとシリコンフォトニクス技術
By Atul Srivastava

第2回目は、前回紹介をした通信網を支える次世代のデジタルコヒーレント技術のなかでも鍵となる、デジタルコヒーレントDSPとシリコンフォトニクス技術の概要とその特徴について紹介をします。

デジタルコヒーレントDSP

デジタルコヒーレントDSPは大容量の信号を適用するために、光信号をON-OFF変調(強度変調)ではなく、強度-位相を用いた光信号を適用し通信するためのデジタル信号処理のLSIで、デジタルコヒーレント通信システムの中心となるデバイスです。今回は小型低電力のDSPについて紹介をします。

【図1】小型低電力DSPのブロック図

図1は、小型低電力DSPのブロック図を示しています。このDSPには、小型化と電力低減の双方を実現するために多くの工夫がなされています。以前の世代のDSPには外部にOTNフレーマーと送信側MUXチップが必要でしたが、このDSPでは、それらの機能が1つのチップに集積されています。最新プロセスの適用と機能の最適化により、前世代の16nmチップセットと比較して消費電力を大幅に削減できています。新しいDSPでは、QPSK、16QAMのシンボルレートが28、32、64GBaudの4chアナログ波形を出力し、100、200、400Gbpsの容量を実現することができます。送信側には100GbE信号をOTU4フレームに収容するフレーマーと、スペクトル効率の高いナイキストパルスを実現できるスペクトルシェーピングフィルターを実装しています。

次に消費電力に関する機能の最適化について説明します。最先端の7nmCMOSテクノロジは、消費電力をさらに削減しながら、600Gb/s(64Gbaudおよび64QAM)などのより高いデータレートのDSPを実現できます。400ZRアプリケーション用の7nmDSPは、15Wトランシーバモジュールに適合するために、消費電力は10Wより小さくする必要があります。新しいDSPでは、アプリケーションに合わせて柔軟なパフォーマンスと消費電力を最適化できるように設計されています。消費電力の最適化は、より高い複雑な計算を必要とする誤り訂正(FEC)および光ファイバの分散量の補償のオプションを選択可能にすることによって実現しています。図1に、100kmから4000kmの伝送距離に対する最適化方法の模式図を示しています。メトロから短距離まで同じトランシーバーで対応するために、FEC、分散補償用のイコライザー、ナイキストフィルターのオプションを適切に選択することにより、消費電力を20〜25%最適化しています※1

シリコンフォトニクス技術を適用したトランシーバー

前回に説明したように、高集積光デバイスは、次世代の小型400Gトランシーバモジュールを実現するための鍵となります。シリコンフォトニクス技術は、シリコン基板に光デバイスを集積する技術で、CMOS技術の大量生産能力を活用できるため、低コスト化の有望なプラットフォームです※2。 シリコンフォトニクス技術を適用したデジタルコヒーレント用の集積デバイスとしては、変調器、コヒーレント用レシーバを集積したCoherent Optical Sub-Assembly(COSA)があり、400ZRモジュールへの適用の検討がなされています。シリコンフォトニックデバイスは変調器等を集積した際にも温度と湿度にも影響を受けにくいため、温度制御や気密封止の必要がありません。このため、パッケージサイズを小型化することが可能です。

【図2】シリコンフォトニクス Coherent Optical Sub-assembly (COSA) の概略図

図2に、シリコンフォトニクスCOSAの概略図を示します。レーザーを除く光トランシーバー用の光デバイスのすべての要素が小さな一つのパッケージに統合できています。具体的には、偏波多重のための2つの同相/直交(IQ)変調器、偏光ビームコンバイナーとローテーター(PBCR)、偏光ビームスプリッターとローテーター(PBSR)、カプラー、コヒーレントミキサーと、Geフォトダイオードが一つのシリコンフォトニクスチップに集積されています。COSAのパッケージとしては、このシリコンフォトニクスチップに加え、4チャネル変調器ドライバICおよび4チャネルトランスインピーダンスアンプICが実装されています。図のように3本の入出力光ファイバは、レーザーからの入力、変調器の出力と受信機の入力になります。この中で、レーザーからの入力は偏波保持ファイバを適用しています。レーザーからの入力光は送信用とコヒーレントレシーバー用で共有しています。温度制御の気密が必要のない実装なので、レンズなしで入出力の光ファイバへ直接接続が可能です。このため写真のように、パッケージの高さは低く、小型に実装することが出来ています。次世代の小型トランシーバモジュール適合するために、このサイズにDCおよびRF接続用のフレキシブルプリント回路(FPC)も含まれています。

参考文献

※1
O. Ishida, et.al., "Power efficient DSP implementation for 100G-and-beyond multi-haul coherent fiber-optic communications," in Proc. OFC2016, W3G.3 (2016).
※2
S. Kamei, et.al., "Silicon Photonics-based Coherent Optical Subassembly (COSA) for Compact Coherent Transceiver," in 21st Microoptics Conference (MOC'16), 14D-1, (2016).

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