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【技術解説】AXEL技術

はじめに

光通信システムの基本は、①電気信号を光信号に変換して送り出す光送信器(光源部)、②光信号の伝送する光ファイバ(伝送媒体)、そして③光信号を再び電気信号に変換するための光受信器(受光部)の3つの要素から構成されます。NTTエレクトロニクスでは、日本電信電話株式会社(以下、NTT)の研究所と協力して、次世代の光通信ネットワークシステムの実現に向けた光送受信器(光トランシーバ)に適用される光源部/受光部用のデバイスやモジュール等の開発および製造・販売を行っています。
本稿では、光通信システムの構成要素である①の光送信器(光源部)を高出力化および低消費電力化することを目的とし、NTT研究所で開発され、NTTエレクトロニクスにおいて製品化を進めているAXEL(「アクセル」と呼びます)技術[1]について紹介します。

光通信システムの規格

光送受信器は、従来は主にテレコム(電話を中心とした)用途の通信システムで使用されてきましたが、近年ではFTTH(Fiber To The Home)に代表される高速インターネットサービスの普及や利用形態の多様化(スマートフォンなどのモバイル端末の爆発的普及・クラウドサービスの拡大)によるデータコム用途での使用が急増しています。
家庭までの光アクセスシステムに使用されているPON(Passive Optical Network)や、データセンタやモバイルキャリアで使用されるEthernetなどのデータコム用途での技術要求に牽引されるかたちで標準化が進んでいます。最新のEthernetでは、1秒間に400 Gbitもの大容量データ伝送を可能とする「400GbE」と呼ばれる規格の標準化が完了しています。400GbEでは、1レーン当たり50Gbit/sを8レーンまたは100Gbit/sを4レーン束ねることによって400Gbit/sの伝送速度を実現しており、最大伝送距離40kmまでの規格が策定されています。さらにより高速な「Byond 400GbE」の規格標準化に向けた議論が進められている状況です。

AXEL技術

このような光通信システムで使用される光送信器には、分岐数の増大や伝送距離を拡大するための高光出力化が必須であり、これと同時に省電力性が求められています。一般的に光送信器は、電流を注入して光を発生させる発光機能と、電気のデータ信号(“ 0 ”と“ 1 ”の強度信号)を光に付加する変調機能から構成されます。光を変調する方法は、光の強度を変化させる方法と位相を変化させる方法があります。強度の変調を行う電界吸収型(EA: Electro-Absorption)変調器を集積した分布帰還型(DFB: Distributed FeedBack)レーザは、電界吸収型変調器集積レーザ(EML: Electro-absorption Modulator integrated with DFB Laser)と呼ばれ、低電力性が特長であることから光送信器として広く用いられています(図1-(a)参照)。このEMLの消費電力をさらに大幅に削減するため、NTT研究所で開発された技術がAXEL(semiconductor optical Amplifier assisted eXtended reach EA-DFB Laser)です(図1-(b)参照)。

EMLとAXELを比較した概要図
図 1

従来のEMLは発光強度を高めるためにレーザに非常に大きな電流を注入していますが、生成された光の大半はEA変調器で光強度を変調する際に損失となるため、電力効率の低さが課題でした。AXELでは、レーザの一部をEA変調器の出射端面に集積化して接続することで、EA変調器の損失の影響を受けない電力効率の高い光増幅領域(SOA:Semiconductor Optical Amplifier)を形成し、電力効率の改善を実現しました。変調光出力強度が改善されたことにより、光ファイバ100km伝送後も光信号は明瞭な波形を保つことが可能となります。また消費電力を半減しながら同等の変調光出力を実現できることから、同等の消費電力で変調光出力を約2倍(3dB増)にすることが可能という特徴があります。このような特徴を活かし、AXEL技術は高速・長距離伝送用Ethernetへの適用が有望視されていますが、光アクセスシステムへの応用により、PONの長延化や分岐数増大への寄与も期待されています(図2参照)。

写真:AXEL-CoCと500円硬貨のサイズ比較
図 2

参考文献

[1]
小林亘他, 「低消費電力・小型化に向けた光デバイス技術」, NTT技術ジャーナル, pp.18-20, 11, 2016.

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